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2005年08月15日

【 母の日本刺繍 】

アタシの実家の玄関には日本刺繍が飾ってある。下妻物語の主人公ではないが、かなりの出来栄えの刺繍。多少アカデミックな感はあるが、しっかりとしたデッサンや色の選び方には好感が持てる。この刺繍、アタシが子供の頃には寝室の片隅に飾ってあった。それが女学校時代の養母の手によるものだと知ったのは、ほんの10年程前のコト。養母は一芸に秀でていた生徒だったのだ。

聞けば、戦争がなければ日本刺繍の先生になりたかったと言う。当時通っていた女学校の師範もそれを薦めてくれていたと言う。そんな話をする彼女の目はどこか懐かしそうだった。アタシが大阪を離れる前、養母を連れてその女学校があった場所を訪ねてみたことがある。阿倍野から阪堺電車上町線に乗って3つ目の駅、東天下茶屋にあったその女学校はすでに郊外へ移転していた。それでも懐かしい街並みは残っていた様子で、養母も満足気な顔を浮かべていた。アタシは生まれも育ちも大阪の北の方なのに、なぜか阿倍野や天王寺界隈に哀愁を感じている変な人種なので、養母とこういった些細な接点があれば嬉しい。

終戦は疎開先の香川県で向かえたと言う。何度か聞いたのだが、子供8人を含む家族全員の大所帯を大阪の東成区から香川県まで疎開させるのは、並大抵ではなかったようだ。盗まれた荷物も少なくなかったらしい。貴重品だったラジオを貴重品扱いにしてもらおうとして、「ラジオ」と包みに書いたばかりにまんまと盗まれてしまったコトも、今となっては笑い話。

疎開も乗り越え、戦後の動乱も乗り越え、養母と一緒にあった刺繍。

戦争がなければきっと母は日本刺繍で生計を立てていただろうなと、あの刺繍を見る度に思う。母がいつでも針箱を手元に置いて、何かと繕い物をしていたその理由も今となってはわかる。

こんなちっぽけな、針の先程の小さな人生の小さなコトかも知れないが、それだけ見ても戦争が奪っていった物は計り知れない。これだけ見ても、その行為が良いか悪いか問うような問題でないことが明白。

もうすぐ正午。ニンゲンの愚考/愚行の全ての被害者への黙祷の時間。

|by Nagarazoku : 11:49コメント (2)トラックバック (2)

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トラックバック時刻: 2005年08月17日 16:46


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>戦争がなければきっと母は日本刺繍で生計を立てていただろうなと、あの刺繍を見る度に思う。母がいつでも針箱を手元に置いて、何かと繕い物をしていたその理由も今となってはわかる。

>こんなちっぽけな、針の先程の小さな人生の小さなコトかも知れないが、それだけ見ても戦争が奪っていった物は計り知れない。これだけ見ても、その行為が良いか悪いか問うような問題でないことが明白。

本当にそうですよね。心して読ませてもらいました。

徹底して「私」にこだって、どこがいけないのだろうと思います。

投稿者 高田昌幸 : 2005年08月17日 16:51

>高田昌幸様:
コメント、アリガトウゴザイマス。

自分の身の回りの小さなことや、私事を大事にできないと、結局は何かを見落としてしまうんじゃないかと、この歳になって思い始めたんです。

そんな身近なところから、机上論でもない、大風呂敷でもない、ニンゲンの生活や生きるコトに根ざした本当の答が見えるような気がして…。

アタシのつたないエントリにTBまでいただいて、本当にアリガトウございました。

投稿者 Nagarazoku : 2005年08月17日 22:57




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